「まぼろしのパン屋」と「岸辺のアルバム」
NHKの”アナザー・ストーリーズ、運命の分岐点”で1974年の多摩川水害とドラマ「岸辺のアルバム」を取り上げています。
(2020 8/25にも放送あります)
「多摩川水害と“岸辺のアルバム”」
夢のマイホームが流されていく…。堤防が決壊、住宅19棟が流失した1974年の多摩川水害。衝撃的な光景は、一部始終が映像におさめられ、世間の大きな関心を集めた。そして生まれた山田太一原作・脚本ドラマ『岸辺のアルバム』。家族の崩壊を描き、最後には水害で自宅そのものが流されるセンセーショナルな物語。突如日常を奪われた時、人は何を思うのか?
という内容です。
社会生活と災害、そして人の心。人は何で生きるのか? 現代に通じる問いかけです。
小説「まぼろしのパン屋」で、主人公が生きた時代の象徴として、1970年代、田園都市線沿線の暮らしを社会背景に据えました。
平凡なサラリーマンである主人公が、なんとか一戸建てを買ったのですが、ん? 夢の暮らし実現、とはちょっと違うぞ。いやいや、じゅうぶんじゃないか、分相応だ。平凡な人生で何が悪い。そう思いながら日を過ごす。
主人公の回想に70年代の時代背景を挿話として書きました。多摩川沿いの一戸建て住宅が、平民にとっては憧れの象徴になりはじめた時代。
ところが、版元の若い編集者は「若い読者には実感がない。何のことかわからないので、割愛したほうがいい」という意見であっさり、ばっさり。
ほんまかいな。生まれる前の話なので、知らないといえば知らない、のでしょうが。
そこへ援軍。
文庫の解説をお願いした大森望さんがゲラを読み、時代の回想が、こいまを生きる人たちに与えた影響は大きい、これは望郷でもある・・などと、書いてくれたので、編集者の意見は一転、挿話を削除する云々の意見は、どこかへ消えたのでありました。
挿話で、時代を遡ったことは、過去へ向かった心の揺れがあり、なぜそこへ向かったかには、漠然としていたとしても、そこには書きたい真実があるのです。
解説で、そういうところをきっちり書いてくれた大森さんには感謝です。
コメント
コメントを投稿