世界のパワーバランスがおかしくなる中、音楽は今から本当に必要とされる時期に入る。
ジャパン・ステューデントジャズフェスティバルの初日(中学生の部)、黒田卓也さんに会いました。15才の時に聴いたクリフォードブラウンにショックを受けて、ジャズメンを目指した、と聞いていたので、その頃の心境から話をはじめてみたかったからです。
「鳥肌が立ちました。やわらかくて大きいサウンド。トランペットの芯のまわりを空気が覆う。フレージング、技術がすばらしすぎる」「いい人のイメージがあるブラウニーだけれど、ライブを見れば違います。音楽家としてぶっ飛んでいる。表現したいという執念があふれている」
日本人で初めてBLUE NOTEと契約した黒田拓也。アフロはステージで「目立つ」事に役立っているという。 |
高校野球まっただ中の期間(8/17〜19)、神戸文化ホールでは中高校生の<ジャズ甲子園>ステューデントジャズフェスティバルが開催された。 |
初日ゲストはフェスティバル出身者のユニット。スペシャルゲストの黒田拓也、広瀬未来(甲南高校出身)ほか、高砂高校、六甲アイランド高校など出身者たちで校正。音楽を一生の友にする楽しさが満開だった。生徒たちも自分たちの未来と重ね合わせたかもしれない。 |
彼とこれからのJazzはどうなっていくかを話しました。ジャパン・ステューデントジャズフェスティバルも34年目を迎え、生徒たちのレベルも上がっていますが、聴衆は年寄りが多く、祖父、祖母が孫の発表会に来ているという景色なのです。街中のJazz Clubもお客様は年配ばかり。これはいかん。
ニューヨークはどうなんでしょう。
「この5〜10年で変わってきています。Jazzはこうあるべきという概念を破るスタイルにも人気があります。Jazzを解放しようとする動きが出てきて、Robert Glasperがその代表です。彼は音楽シーン、Jazz、R&B、クラシックなどに摩擦を起こし、その摩擦がエネルギーを起こしています。もはやJazzをJazzと呼ぶ必要もない、と発言もしています」
そこであらためてRobert Glasperの「So Beautiful」を聴いてみました。
たしかに今の時代、次の時代に何をすべきか、想いに満ちた演奏です。
Robert Glasperの解説(中山千尋<http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/12800>
90年代後半以降のブラッド・メルドーを主流とするストレート・アヘッドなジャズ・ピアノ・スタイルでデビューした当時、ロバート・グラスパーは〈黒いブラッド・メルドー〉と囁かれたほどだ。その煌びやかなピアニズムは数々のサポート・ピアニストとしての演奏でもうかがい知ることができる。難解なコード進行や変拍子を軽やかに、そして最もスタイリッシュでソリッドな奏法で表現できるピアニストはそう多くはないだろう。興味深いのは、ロバート・グラスパーが彼自身の職人的なジャズ・ピアノ技法を突き詰めるというベクトルではなく、ジャズのパラダイムを転換するという最も重要な役割を果たすアーティストという方向にシフトしたことだ。同時代のカリスマ的なアフリカン・アメリカンのミュージシャンたちがそうであるように、彼自身の音楽のルーツであるチャーチ(教会)/ゴスペル・ミュージックをさらに深め、独自の進化を遂げているロバート・グラスパーこそ、いまのジャズにとって台風の目なのである。〈ジャズ=ロバート・グラスパー〉。そんな等式が、現代においては腑に落ちる答えではないだろうか。ロバート・グラスパー・エクスペリメントでの活動でもカリスマ的な人気を誇る彼には、ジャンルを問わず若い世代のフォロワーが数多い。そんなことからも、その音楽の影響がどれだけ大きいかを物語ることができるであろう。
「ジャズは、どうしても難解だと思われがちでけれど、いいと思ったものを正しい形で伝えれば、ジャズの世界も広がる。20、30代の若い世代が『きょう暇だから、ジャズでも聞きに行くか』って。そういう会話が普通に聞こえるようになったらいいな」
じゃあ、どうすればいい?
「ミュージシャンが演奏の機会を増やすこと、ミュージシャンが演奏できる機会を提供すること。いいものを聴く機会が増えれば、プロモーターやプロデューサーも目を付ける。ミュージシャンは演奏の機会が増え、ハコの入場料を下げることもできれば若いリスナーが参加しやすくなる」
むずかしいでしょうか? 簡単ではないかもしれない。
そこでステューデント・ジャズフェスティバルなのです。中学高校生による感度の高い演奏会。素敵なコンテンツ・素材があるではないですか。
フェスティバルで受賞にあたりするレベルの演奏を聴けば、ファンになること請け合いです。しかも安い。入場料は¥1,000,学生なら¥500で、1日6時間も聴けます。
ジャズが閉ざされてるという問題点は、良くも悪くも1940〜60年代あたりのジャズメンたちがすごすぎることにもあります。音大の学生だって、チャーリー・パーカーやセルニアス・モンク、クリフォードブラウンなんかを目指す人が多い。未だに廃れない人気は、彼らがいかに巨人だったかにあります。
僕は、グランプリに当たる神戸市長賞を獲った伊丹市立伊丹高等学校がラストに演奏したにジャズの革新を見ました。
<The Gathering Sky>訳せば「空を集めて」。空想へ誘われ、広がる世界。やさしい曲想である半面、むずかしい曲です。解釈も技術もアンサンブルも。ところがパットメセニーのオリジナル・ギターサウンドよりも、生徒が奏でるソプラノサックスのほうに世界を広く感じ、心さえ癒されたのです。ギターを管楽器に代えたことで、クラシックの楽曲にさえ聴こえました。アレンジはジャズの解釈を広げています。高校生がここまででやるのです。
伊丹市立伊丹高等学校はグランプリに当たる神戸市長賞受賞。ソプラノサックスとトロンボーンでも個人賞を穫った。 |
2日目の審査員評で古谷充さんはこう仰いました。
「演奏のレベルが年々上がり、上位は差がないように聞こえるかもしれない。しかし、小手先と、修練を積み上げた演奏にははっきりと差が出る」
3日目の審査員評宗清洋さんも、リズムセクションの重要性とともに付け加えました。
「テンションを使うにしても、わかって使う事が大切。行き当たりばったりはだめだ」
上位チームはそんな厳しい審査員のメガネにもかなった演奏を披露しました。
生徒たちはまだまだ羽ばたけます。だって年長でも18歳。
フェスティバルのオーラスを飾った<The Gathering Sky>、空の広さとともに、ジャズはもっと広い空へ翔る、そんな思いを抱かせてくれた演奏でした。美しい音に包まれ、今を大切に生きよう、そんなことさえ感じてしまいました。
聴衆にサマソニに行くような世代が少ないのは寂しいことです。文化を楽しむ機会損失です。受賞レベルの演奏を聴けば、ファンになること請け合いなのに。
惜しくも2位の高砂高校。ドラムとサックスは個人賞受賞。来年がんばれ。 |
兵庫県立国際高校。歌姫がヴォーカルで個人賞。
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さて、話は戻って黒田卓也さん。
「世界のパワーバランスがおかしくなる中、音楽は今から本当に必要とされる時期に入ると思っています」
彼も未来へ向かいます。
「Clifford Brown with Stringsは素晴らしいけれど、自分が演奏家としてそこへ戻ることはない。大ファンには違いないけれど、次へ進まないと」
進む方法を、生徒たちからも教えられましたのではないでしょうか。
今の若者はかつてジャズが流行った時代を知りません。熱気の恩恵を受けていません。逆に言えば、なにをやってもいいのです。情報もいっぱいあります。自分の部屋で、スマホで、チャーリー・パーカーとマイルス・デイビスとロバート・グラスパーを並行して聴けるのです。これがジャズ、なんて狭い範囲でくくる時代じゃない。ジャズは革新です。
フェスが終わって祭りのあとの気分。でも、秋にも冬にもJazzはあります。新しいJazzを見つけに、街へ出ましょう。
フェスが終わって祭りのあとの気分。でも、秋にも冬にもJazzはあります。新しいJazzを見つけに、街へ出ましょう。
Clifford Brown with Strings 黒田卓也さんの心の友。でも次へ進む。
報道ステーション・テーマ曲 「Starting Five」by JSquad
神戸文化振興財団の方からお聞きしましたが、神戸は路上ライブの場所がほとんどないということです。行政はちょっと手を貸してあげて、公園や駅前、商店街などを使えるよう、間に立ってあげてほしいものです。井の頭公園では借りやすいシステムがあるそうですし、目を海外へ向ければ、ニューヨークやパリでは、素敵な路上ジャズライブがいっぱいあります。場所などいくらでもあるでしょう。ライブハウスに出る前の腕試し。部活帰りの高校生にプロも混じってジャムをする。飛び入りですぐ合わせられるのもジャズの魅力です。そんな景色を神戸で見たい。まずは一ヶ所、場所を作りませんか。ステューデントジャズフェスティバル開催中も、市内中心部にビッグバンドの席を作っておいて、高校生たちも街中で一曲披露してから解散する。駅ピアノならぬ、南京町入口ピアノ、とか。街をもっと魅力的に。やり方次第。やりかたは何通りもあります。神戸から、素敵な演奏をもっといっぱい届けましょう。
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